2011年12月02日

共 生


 その群れは、糧を求めて南の草原を目指

していた。

「父さん、爺は大丈夫かな?」


「歩くのも大変そうだ。もう歳だからな」


「そんな爺に、食事の世話をしたり歩くのを

助けたり、みんなとても優しいね」


「この群れの中で、爺は最も勇敢だからな」


「えっ、それは父さんじゃないか。爺は歩く

のもやっとで、ライオンと戦うこともできな

い。角だって父さんの方が太くて大きい」


「確かに力は父さんのほうが何倍も強い。で

も、父さんだって、ライオンに襲われたら逃

げるしかないんだ。爺は違う。ライオンから

逃げる事はない。この群れでは、老いたもの

が一番偉いんだ。だから誰もが尊敬するし大

切にもする。それが、この群れが生き残るた

めのルールなんだ」


 息子は父の話に納得できないまま、歩き続

けた。いつか父のように立派な角を持ち、ラ

イオンにだって負けないぐらい強くなってや

る、そう思った。


 草原にたどり着いた息子は、草をお腹いっ

ぱいに食べて、のんびりと昼寝をしていた。


「ライオンの群れだ!急いで逃げろ!」

 
突然の父の叫び声に、息子は慌てて飛び起

きた。そして父の後を追った。父は逃げ遅れ

た仲間がいないか、周りを見回しながら逃げ

ている。


 その時、息子はライオンに追われている爺

を見つけた。いつもは歩くのがやっとなのに、

今は必死で駆けている。慌てているのか、み

んなと逃る方向は逆だ。


「父さん、爺が危ない。早く助けに行こうよ。

ねえ、父さん早く!」


 しかし、父は何も言わず逃げるだけだった。

 爺、ごめんね、いつかきっと強くなって、

爺の仇をとってやる、息子は心に誓った。


 父は安全な所に着くと、仲間を確認した。

爺以外はみんな無事だった。そして息子に話

しかけた。


「おまえが今考えていることをあててやろう。

強くなって爺の仇をとってやる」


 息子はドキッとした。


「父さんも子供の頃、仲間を殺され同じ事を

考えた。それから、強くなるため仲間とよく

戦った。いつしか群れで一番強くなっていた。


 ある時、群れがライオンに襲われたんだ。

 父さんはライオンに向かって走った。そし

て角を思い切りライオンの首めがけて突き出

した。ライオンは軽く横に飛んで避けると、

手を大きく振るった。父さんの肩は、深くえ

ぐられ血が吹きだした。


 ライオンとの力の差を思い知らされた。勝

てる相手ではない、父さんは死を覚悟した。


 その時、群れの年老いた一頭が、こちらに

向かって駆けてくるのが見えた。その表情に

恐怖はなかった。強い意志を秘めた勇者だっ

た。それまで、何故こんな老いたものを大切

にするのだろう、群れの移動には足手まとい

だし、やがて死ぬのだからそこまで世話をす

る必要はない、そう思っていた。


 老いた勇者は、ライオンに襲いかかった。

新たな敵に一瞬怯んだライオンだったが、あ

っさりと首に噛みついた。

 
そのすきに、父さんは逃げた。泣きながら

逃げた。自分の愚かな行為で命を無駄にして

しまった。そして、気づいたんだ。


 年老いた仲間達は群れを守るためライオン

に立ち向かうんだ。強制している訳ではない。

むしろ自分の死を無駄にしたくないと自らす

すんで誇らしげに死んでいくんだ。


 老いたものは普段仲間に助けられて生活し

ている。そして万が一の時、その命を投げ出

して群れを守る。大切にする理由は、それだ

けじゃない。年老いたものの経験は危険を避

ける術も知っている。


 だから、群れで最も勇敢なのは老いたもの

達なんだ。おまえは、爺が群れと逆に逃げた

理由を知っているか?

慌てたんじゃない。群れとライオンを引き

離すためだったんだ。ライオンの狙いを眠っ

ていたお前から、自分に変えさせたんだ。

爺はわざわざライオンの前を横切ったんだ。

勇敢な最後だった」


 堪えていた思いが息子の目からこぼれた。


その時、草原の端に別な群れが現れた。


「父さん、あの群れは年寄りを大切にしてい

ない。みんな置き去りにされている」


「そうだ。最近、急に現れた群れだ。弱いも

のはどんどん捨てられていくのでみんな必死

だ。その分、力も強い。が、みんな疲れて病

んでいる。

 いつ自分が落伍するか、とね。

 私たちの群れは安心なんだ。いつも弱いも

のを守り、そして、弱いものに守られている。

しかし、あの群れは、自分で自分を守るしか

ない。弱いものを大切にしない群れは、必ず

崩壊の道を辿るんだ」


「僕たちと違って二本の足で歩いてるけどな

んていう群れなの?」


「人間というらしい。ライオン以上に恐ろし

いから絶対に近づいてはいけないよ」





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posted by saru at 11:30| Comment(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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