2011年12月24日

修二 -2-


 浩平によると、そのラーメン屋さんは、お

じいさんがひとりでやってるみたい。


 昔は、美味しくて、とても繁盛してたらし

いけど、おばあさんが亡くなってから、お

店も閉まっていることが多くなったって。


 おばあさんが亡くなって、ショックだった

んだろうね。


 たまにお店が開いてる時も、注文やお勘定

を間違えたりして、おじいさん、だいぶ呆け

てきちゃってるみたい。だから、最近はお客

さんもほとんど来ないんだって。

 気持ちは分かるよね。

 お店なんて、やる気になんだいだろうなぁ。


 僕だってゴンが死んだ時は、しばらく勉強を

する気になれなかったから。

 ゴンって言うのは、前に飼っていた犬の名前。

もう、おじいさん犬だったから仕方ないけどね。


 そんなおじいさんのお店が、何でタダなんだ

ろう。


 よく、流行らないお店が話題づくりで、超特

大のラーメンを完食したらタダ! とかやって

るけど、そんなこと、やりそうもないよなぁ。

 浩平に言ってみたら、笑って否定された。



「何で、タダだかよく分かんないけど、別に

ラーメン食べたくないし。浩平がひとりで行

けばいいじゃん。」



「そんな冷たいこと言うなよ。

 おまえに美味しいラーメン、食べさせてあ

げたいんだよ。そのじいさん、呆けてるけど

腕のほうは確かなんだぜ。」

 と言いながら、また浩平の眉が上がった。


 何か企んでいるのは確かだ。


「あの郵便局の角を曲がって、ちょっと行っ

たところにあるんだ。

 最近は、じいさんも、ちょっと元気になっ

て店をよく開けるようになったらしいんだ。

 元気になるのはいいけど、呆けが治っちゃ

困るんだよな。」


 何で呆けが治っちゃ困るんだ?


 考えていると、郵便局の角を曲がって浩平が

言った。


「ほら、あそこの汚い看板があるところ。ど

う見たって旨そうなラーメン屋には見えない

よな。」


 確かに、看板は錆びて、ところどころが剥

がれている。

 かろうじて「大将軒」って読める。


 昔は、とても繁盛していたっていうけど、

ちょっと想像できない。


 店の前に、行列とか、できてたんだろうか?

 今は汚い猫が気持ちよさそうに寝ているだ

けだ。
 

「今日も開いてるぜ。ラッキー!」

 そういえば、浩平は昨日もタダで食べたっ

て言ってたっけ。


「お客もいない。これまたラッキー!」


 何か、昔のギャグみたいなこと言って浩平は

店に入ってった。

 僕も続けて入ると、お店には4人がけのテー

ブルが6つあった。


 奥の厨房は、入口に暖簾が下がっていて中

は見えない。厨房の横には裏口へ向かう通路

と、途中にトイレが見える。


 看板は汚かったけど、お店の中は思ったよ

り綺麗だった。

 壁にはメニューがあるけど、もちろんタダ

なんて書いてない。完食したら無料、なんて

張り紙も当然なかった。


 お客は僕たちだけだ。


 お店のおじいさんもいるんだろうか?


 いらっしゃいませ、みたいな声もなくてシ

ーンとしている。


「修二もラーメンでいいよな。ついでに餃子

も食べるか。俺、注文してくるから。」

 と席を立つと、慣れた様子で厨房の暖簾を

上げると、中へ向かって大声で注文した。



 水はセルフサービスだ、と浩平は二人分の

水を持って来てくれた。こんな気を使えるの

が本当の浩平なんだ。悪ぶってるけど、本当

の悪には、なれないだろうな。

 僕もイヤイヤながら付き合っているのは、

できることなら昔の浩平に戻って欲しいとい

う気持ちがあるからなんだろう。


「ここのじいさん、厨房の中でいつも新聞読

んでるんだ。

 呆けてるし、耳も遠いから、客が来たことも

気づかない。

 だから、注文する時は、今みたいに中へ叫

ぶのが、ここのやり方。

 まあ、だから都合がいいんだけどな。」

 と、また眉をあげる。


 呆けが治っちゃ困る? 耳が遠くて都合が良

い? 浩平の言葉に、何かタダで食べられるこ

との答えが見つかりそうになった時、タイミン

グ悪くラーメンと餃子が運ばれてきた。


 浩平が散々に言うから、かなりヨボヨボの

おじいさんを想像していたけど、ラーメンを

運んできた時の足取りは、しっかりしていた

ように思う。


 無表情で、何にも言わずにラーメンと餃子

を置いていったのを、

「なっ、呆けてるだろ。」

って浩平は言ったけど、本当にそうかな?


 味を追求することに熱心で接客は苦手な職

人、無愛想だけど腕はしっかりしてる、そん

な風に僕には見えた。とても呆けたおじいさ

んには見えないけど。


 お客さんから注文とったりするのは、亡く

なったおばあさんがやってたんだろうな。

 もちろん会ったことはないけど、そのころ

の明るく清潔な雰囲気が、まだお店の中に残

っているような気がする。


 おばあさんが元気だった頃に、一度、来て

みたかったな。

 もっと、おいしかっただろうな〜って、ま

だ、食べてなかった。

 いけない、のびちゃうよ。


 隣で、山羊じゃあるまいし

 うめ〜!うめ〜!

 を連発している浩平の声でもう食べた気に

なっちゃった。


 タダで食べるって意味がよく分からないけ

ど、それは後回しでいいや。


「いただきま〜す!」


「うっ、うめ〜!」


あっ、浩平の言葉がうつっちゃった。


                  つづく






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posted by saru at 09:19| Comment(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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