2012年01月28日

修二 -3-


「修二、山城屋って知ってるか?」

 先に食べ終わっていた浩平が聞いてきた。


 山城屋っていうのは、駅前にあるとっても

美味しいラーメン屋さん。

 いつも行列ができてる。

 最近、テレビや雑誌で紹介されてから、更

に、行列は長くなった。


「うん。先週、行ったよ。

 一時間は並んだかな。

これでも空いてるって、お店の人は言っ

てたけどね。」


「で、美味しかったか?」


「すっごく美味しかった。」


「本当に?」


「えっ?美味しかったと思うけど、何で。」


 浩平は、コップの水を一口飲むと、身を乗

り出すようにして話し始めた。


「最近、味が落ちたって評判だよ。

 昔から、山城屋に通っていた常連の人達は

もう、とっくに行くのを止めたよ。

 テレビとかで騒がれて、急に人気が出たか

ら、仕込みが間に合わなくなったんだ。

 で、すごく手抜きをしてる。そうしないと

間に合わないからさ。

 こんど並んでいる人達を見てみな。雑誌と

か持っている人ばかりだから。

 ほとんどが、ラーメンの味が自分では分か

らない、他人が美味しいって言うラーメンを

美味しいって思い込んでる人達さ。」


「そうかなぁ、そんな人ばかりじゃないと思

うけど。」


「まあな。

 評判をきいて一度は行くかもしれないけど

味の分かる人は、もう二度と行かないね。

 でも、修二は美味しいと思ったんだろ。

 長い列が出来ていて、テレビでも紹介されたか

ら。」


「ま、まぁそうだけど。」

 なんか悔しいけど、そうなのかも知れない。

 最初から、評判が良いから美味しいものだ

と決めつけていた。考えてみれば、山城屋の

ラーメンってどんな味だったか、あまり覚え

てない。

 浩平って、ラーメンのことこんなに詳しか

ったっけ?

 でも良かった。

 昔の浩平に戻ったみたいで。

 なんか、一生懸命に話しているのがうれしい。


「今、この辺じゃ、商店街からちょっと離れ

たところにある、和田ってお店。

 あんまり知られてないけど、あそこは美味

しいよ。

 雑誌の取材とか来てるらしいけどすべて断

ってるって。」


「えっ、なんで?

 有名になったほうがお客さんが増えていい

んじゃないの?」


「一日に作れるラーメンの数は決まってるだ

ろ。

 無理して数を増やすと、山城屋みたいにな

っちゃうし。

 和田さんのところは、夫婦だけで小さくお

店をやりたいんだって。

 人件費も安くないからね。

 儲けるつもりはないんだ。

 お客さんが喜んでくれればそれでいいって言

ってたよ。

 だから、その日の数が売れたら、閉店なんだ。

 山城屋に通ってた人達は、今、みんな和田に

行ってるよ。」


「へぇ、そうなんだ。」


「それに、なんと言ってもここだよ。

 ここ!」

 そう言って、浩平は人差し指で机を指すよ

うに、コンコンと音をたてた。


「大将軒の大将って、ここの爺さんをみんな

が大将って呼んでたから、店の名前にしたん

だって。

 昔は、ここで数年修行してから、自分のお

店を持つ人も結構いたらしい。

 でも、ばあさんが死んでからは、ほとんど

店を閉めちゃってるから、最近は幻の名店、

なんて言われてるらしい。

 だから、修二を誘ったんだよ。

 滅多に食べられないんだぞ、ここのラーメ

ン。」


「うん、すごく美味しいよ。

 誘ってくれてありがとう。

 でも浩平、なんでそんなにラーメンの事、

詳しいの?」


「大将軒の事は、山城屋に通ってた人に教え

てもらったんだ。

 俺、学校の勉強よりラーメン屋のほうが向

いてると思うんだ。

 実は、学校さぼって、ラーメン食べ歩いて

たんだ。

 山崎には内緒な。

 この近くで、今、話題になってる店はほと

んど行ったよ。」


「へぇ、知らなかった。

遊んでるだけかと思ってた。」


「まぁな。

 学校行かないで、ラーメン食べてるだけだ

から、そう思われても仕方ないけど。

 俺、ラーメン屋になるのが夢なんだ。

 結構、自信あるんだ。

 山城屋なんかより、楽勝で美味しいラーメ

ン作れるぜ!」

 そう言えば、小学校の調理実習で、浩平は

料理の手際が良いって、家庭科の先生に誉め

られていたっけ。


「でもお袋に反対されててさぁ。

 学校さぼってラーメン屋通ってるのばれち

ゃって、小遣いもストップ!」


「なんで浩平のお母さんは反対なの?」

 修二は山崎先生に逆ギレしたっていう浩平

のお母さんの事を思い出しながらきいた。


「さあね。

 お袋は高校までしか行ってないから、俺に

は、ちゃんと大学出て、就職して欲しいんじ

ゃないのかな。

 親子なんだから、頭の出来も同じなのに、

変に期待されたってさぁ。」


「でも、凄いね。

 今からやりたいことがあるなんて。

 浩平、僕も応援するよ!」


「ありがとう。そん時はよろしく。

 さてと、腹もいっぱいになったし、修二も

 食べ終わったよな。」

 言いながら浩平の眉が上がった。

「うん、すごく美味しかった。」

 さっきまで、元気にしゃべっていた浩平な

のに、何か様子が変だ。


 

           もうちょっと、つづく







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posted by saru at 16:32| Comment(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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