2012年01月29日

修二 -4-


「修二、おまえトイレはいいか?」

 浩平は、何か落ち着かない様子できいて

きた。


「別に、行きたくないけど。」

「そうか。

 じゃあさぁ、俺、先に行くから。

 修二も後から来いよ。」


 なんで、そんな事をしつこく聞いてくるん

だろう。

 さっきまで楽しかったのに、ちょっとイラッ

 としてきた。

 声も思わず、大きくなっちゃった。


「だから、僕はいいって。

 待ってるから早く行きなよ。」
 

「大きな声出すなって。すぐ後から来いよ。」


 何かおかしい。

 浩平はヒソヒソ声でしゃべっている。


「行かない!」


「だから、トイレの先に裏口が見えるだろ。

あそこから・・・」


 残念ながら、嫌な予感的中だ!

「浩平、それって、お金を払わないで出るって

こと?」


「でかい声出すなって。ここの爺さんは呆け

てるから大丈夫なんだよ。

 昨日も来たのに、さっき、何にも言わなか

っただろ。

 爺さん、覚えてないんだよ。

 じゃ、先に・・・」


 あきれてものが言えないって、こんな事を

言うのかな。

 僕は言うけどね。

 でも、浩平って、こんな事平気でできる奴

だったっけ。

 情けなくなって、涙が出そうだ。


「山城屋が不味い?

 将来はラーメン屋をやりたい?

 よく言うよ!

 こんなに美味しいラーメンを作るのって大

変なんでしょ。

 そんなこと、浩平のほうがよく知ってよね。 

 それでも平気で、そんなひどいこと考えられ

る人間に、絶対美味しいラーメンは作れない。」



 つられて浩平も、大きな声で言い返してきた。

「俺だって、好きでこんなことした訳じゃない。

 小遣いもらえなくなって、金がない時に、

 大将軒が開いてるって聞いたから。

 しかも爺さん呆けてるから、逃げても大丈

夫だって、後藤先輩が言うから・・・本当は

止めようって思ったんだけど。

 でも、どうしても食べたくてさ。

 今日も、本当は、正直に謝ろうかなっ

て思ったんだけど・・・。」


 浩平の眉が上がっていないから、一応、嘘

は言ってないってことかな。

 平気でこんな事したわけじゃなさそうだ。

 だからって、浩平を許す気にはなれないけ

どね。

「浩平、言い訳なんて聞きたくないから。

 裏口から出るんなら、勝手に行きなよ。」


「修二・・・。」


「僕は残るから。

 残って正直に話す。

 お金は、後でちゃんともってくるからって

言ってみる。

 お爺さんに許してもらえるかどうか分から

ないけどね。

 浩平、早く行きなよ!」


 浩平は、イスに座ったまま、しばらく動かなかった。

 そして、つぶやくように言った。


「修二・・・ごめん。

 ちゃんと、爺さんに話すから、浩平も一緒

にあやまってくれるか。

 呆けてるから、通じないかも知んないけ

ど。」


「浩平、ここのお爺さん、呆けてるようには

見えないよ・・・。」


 その時突然、後ろから声がした。

「話は聞かせてもらったよ。」


 えっ、何だ?

 ビックリして振り向くと、いつの間にか、

お爺さんが立っていた。


「あ、お爺さん。」

「な、なんだ爺さん、呆けてなかったのか。」


「浩平とか言ったな。

 さあ、今から警察へ行こう・・・

 と思ったんだけどな。

 お前さん、良い友達を持ったな。

 修二君って言ったね。

 今回は君の顔を立てて、警察の話は、預か

りってことにしておく。

 あとは、これからの浩平次第ってことだ。」


「あ、ありがとうございます。」


 と言いながら、しきりに頭を下げている浩

平に、お爺さんは厳しい表情で言った。


「まだ、許すとは言ってない。

 お前のこれから次第、と言ったんだ。」


「あの、今、お金を持ってなくて、よければ

すぐに、お金をとってきますから。」

 僕も一緒に頭を下げながら言った。


「修二君、君の分のお金は要らないよ。

 その代わり、これからも浩平の面倒をみて

やってくれるかな。

 こいつ、ラーメンには詳しいようだが、夢

中になると、良いことと悪いことの区別がつ

かなくなるらしい。

 それをきちんと教えてやってくれるか?」


「はい、浩平のためなら、一生懸命やります。

 ラーメン、ごちそうさまでした。

 とても美味しかったです。」 


 お爺さんは、僕に笑顔で頷いてくれた。

 でも、浩平には、また厳しい表情に戻した。

「浩平、お前はしばらくここで働いて、食べ

た分を返せ。

 昨日と今日の二日分だぞ!」


「昨日って・・・やっぱり分かってたんだ。」


「当たり前だ。

 あんなことを平気でやるような人間かどうか、

 知りたくってな。

 で、浩平。

 今日は、わざと修二君を連れてきたのか?

 本当は、止めてもらうつもりで・・・」


「い、いや。そんな事はありません。」

 と言いながら、浩平の眉が上がってる。



 うん、それって、どういう事?

 そもそも、浩平は、何故、僕を連れてきたん

 だろう?

 ひとりで来てれば、僕に止められることも

 なかっただだろうに。



「そうか。

 まあ、いいだろう。

 それと浩平、お前のお母さんに今日の事を

 正直に話せ。

 そして、お母さんを連れてもう一回店に来い。

 それができるんなら、警察のことは忘れてやっ

 てもいい!」


 ちょうどその時、店の外で声がした。

「あっ、ここだここだ。

 やっぱり開いてるよ。」


「店を再開したって、本当だったんだ!」

 と言いながら、二人の男の人が入ってきた。


                 すみません
               次で終わります

                   つづく








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posted by saru at 07:04| Comment(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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