2012年01月30日

修二 -5-(完)


「あっ、大将。

 水くさいですよ。店、開けたんなら教えて

下さいよ。」


「よお、久しぶりだね。」


「お久しぶりです、大将。もうお元気になら

れたんですか?」


「まあ、ぼちぼちな。」 


「そうですか。じゃあ、また店、やるんです

ね。」


「まあ、あまり、無理しないようにな。」


「そうですね。無理して、また店を閉められ

たら困りますから。ぜひ、そうしてください。

 それじゃ、ラーメン、ふたつお願いできま

すか。」


「ああ、ありがとう。ラーメンふたつね。」


 元気そうにお爺さんは、厨房に向かった。

 しかし、どうみたって、耳は遠くないよね。

でっかい声で注文していた浩平は、なんだっ

たんだろう。


「おっ、君は浩平くんだったね。

 こんにちは。

 ここが開いてること、知ってたんだ。

 いや、君に先を越されたね。

 さすがだよ。」


 さっきの二人が、浩平に話しかけてきた。

 お互いに知り合いみたいだね。

 山城屋に通ってた人達なのかな。


「こ、こんにちは。」

 浩平が二人に挨拶した時、厨房からお爺さ

んの大きな声が飛んできた。

「浩平、自分達のどんぶりを片づけたら、すぐに

お母さんに話してこい。

 それから、お客さんにお水をお出ししてく

れ。 

 返事は?」

「はい!」

 明るくて大きな声だった。

浩平は、テキパキとどんぶりを片づけると

二人の前に水を出した。

 二人と、笑顔で何か話してる。

 浩平、何か活き活きしてるな。

 前からここで働いているお店の

人みたいに見えるよ。


 本当に美味しいものって、人を明るく元気

にしてくれるんだな。


 また昔の大将軒に戻って欲しいな。

 いや、もう戻ってるような気がする。



 店を出た後、浩平は、もう一度、迷惑かけ

 てごめん、って僕に謝ってから、お袋に話を

 しなきゃいけないからって、急いで家に戻っ

 ていった。

 
 今日の事は、浩平の嘘をそのまま信じた僕

 にも責任があると思う。

 
 あんな事になる前に、もっと浩平の話を聞

いていれば、と反省している。


 お爺さんとの約束もあるし、浩平にはこれ

からもビシビシ言わせてもらう。


 まずは、ちゃんと学校へ来いって言うつも

り。


 で、その後の浩平のこと。


 あれから浩平は、すぐにお母さんと一緒に

大将軒へ謝りに行ったんだって。


 さすがの浩平のお母さんも、今回ばかりは

ひたすら謝ったって。

 当たり前だよね。

 お母さんはお金を払うって言ったらしいけ

ど、お爺さんは働いて返してもらうって、受

け取らなかった。


 お金を払って、簡単に解決して欲しくない

って、お爺さんがそう言ったんだって。

 当然だよね。

 僕もそう思う。

 浩平には、きっちりとお店で働いてもらっ

て、お金の大切さを知って欲しい。


 浩平は、お店で働けること喜んでるけどね。

 だって、あの幻の名店で働けるんだもの。

 ここで修行して、店を出した人もいるって

いうんだから。


 願ったり、叶ったりってやつだね。


 更に、お爺さんは

「あの若さで、浩平はラーメンの味をよく知

っている。

 これから、きちんと修行したら、とても美

味しいラーメンをつくれる。」

 って、お母さんに言ってくれたんだって。

 
 お母さんも満更じゃなかったみたいで、将

来のことについては、一度ちゃんと話をしよ

う、って浩平に言ったんだって。


 浩平がラーメンのお店を出したいって話、

お爺さんも、ちゃんと聞いてたんだね。


 ちょっと恐いけど、とても優しいお爺さん

だと僕は思う。


 浩平は毎日学校へ来るようになった。

 授業もちゃんと受けてる。

 もちろん、もう携帯なんか見てないよ。

 お爺さんと約束したんだって。

 学校へちゃんと行くなら、ラーメンづくり

のこと、少しずつ教えてくれるって。

 

 気が付いてみたら、学校のことも、将来の

こともみんなうまくいって良かった。

 あとは、浩平の頑張り次第ってことだね。


 僕も大将軒の美味しいラーメンを・・・

 うん?

 結局、僕はラーメンをタダで食べたんだ。

 う〜ん。

 浩平は、嘘を言ってなかったって事?

 浩平は、こうなると判って、ワザと僕を誘

 ったの?

 まっさかね〜?


 切っ掛けは良くない事だったけど、今では

とても良かったと思っている。

 災い転じて、ってこんなことを言うのか

な?



 今日はこれから、お母さんとお父さんと三

人で、大将軒へラーメンを食べに行くんだ。


 二人に大将軒の事を聞いたら、昔、繁盛し

てたこと知っていて、今度食べに行こう、っ

てことになったんだ。


 もちろん、浩平には、大将軒に居ない日を

確認しておいたよ。 

 だって、お店で浩平が働いてたりすると、

お母さんに説明するのは、ちょっと面倒だか

らね。


 でも、未だに、分からないことが、ひとつ

あるんだ。


 浩平が後藤先輩から聞いた話。

 お爺さんが呆けてる、って浩平に言ったん

 だよね。


 どう見たって、お爺さん呆けていない。

 急に治ったの?

 そんなはず、ないよね。


 とすると、後藤先輩が浩平に嘘を言った、

って事だよね。

 何で後藤先輩は浩平に嘘を教えたんだろう?


 ワザとタダ食いさせて、警察に捕まえさせ

るため?

 何でそんな事をするの?

 浩平に、何か恨みがあるとか?

 だったら、直接、浩平をやっつけちゃった

 ほうが早い。

 後藤先輩は、昔からケンカが強くて有名だ

 ったからね。

 
 そんな事を考えて歩いていたら、郵便局の

 角をちょうど曲がったところだった。

 顔を上げたら、大将軒の看板が見えて、ビ

ックリ。

 看板がきれいになってる。

 お爺さん、だいぶやる気になってきたのか

 な。なんか嬉しい気分。


  と、思ったら、もうひとつ、ビックリ!

 お店の中から、後藤先輩が出てきた。

 あっ、お爺さんも一緒だ。

 店先で、何か楽しそうに話してる。

二人は知り合いだったんだ。

 なのに、なんで後藤先輩は、あんな嘘を?


 あんまり僕がジーッと見ていたから、二人

 もこっちを振り向いて、僕を見つけてビック

 リしてる。

 3連続ビックリだね。


 お爺さんは、イタズラを見つかった子供み

 たいに頭を掻いてる。

 後藤先輩は・・・あれっ! 

 右の眉が上がってる。

 後藤先輩の癖?


 僕が挨拶したら、二人もすぐに笑顔になっ

て、挨拶を返してくれた。


 お爺さんは、僕に小声で、ちょっとここで

 待ってて、って言うとお父さんとお母さんを

 店内へ案内した。

 

 すぐに戻ってくると、僕に言った。


「修二君には、まずいとこ見られちゃったな。

 このことは、山崎先生と浩平には内緒だよ。

 浩平には、あとでちゃんと話すつもりだか

 ら。」


 うん?

 何を内緒にするの?


「大将、変な事を言うから、かえって、修二

 が混乱してますよ。」


 うん、確かに混乱している。


「あの、お爺さんは山崎先生や後藤先輩と知

 り合いだったんですね。」


「昔、俺がこの店で、金を払わないで逃げよ

 うとしことがあるんだ。」


「エッ!本当ですか?」


「ああ。

 で、あっさり大将に捕まって、山崎

 先生が俺を引き取りに来てくれたんだ。

 しばらくここで働いて、大将には許して

 もらった。

 ラーメンつくりのセンスはなかったけど、

 人として大切なことを教えてもらったよ。」



「そんな事があったんですか。

 どこかで聞いたような話ですね。」


「ハハハ、そうだね、修二君。

 実は、山崎先生が相談にみえたんだ。

 将来、ラーメン屋をやりたいって生徒

 がいるんだけど、ってね。

 熱心な先生だね。

  偶然、後藤が挨拶に来たんで、そん

 な話をしたら、浩平の事をよく知ってて、

 心配してるっていうから。

 まあ、二人でちょっとお節介をな、

 おっと、いけない。 

 ご両親をお待たせしてしまった。」


 あわてて、お爺さんと僕は店に戻った。

 後藤先輩は、浩平の事よろしくな、って言

 って、帰っていった。


 店に戻ったら、お母さんに

「お爺さんの話は何だったの?」

 って聞かれた。


 僕は

「後で、ラーメンの感想を教えて欲しいって

言われたんだ。」

 って誤魔化したら、

「お前の感想聞いても、しょうがないだろう

 になぁ。」ってお父さんに言われた。


 悔しいから、山城屋や和田の話をしてやっ

 たら、二人とも、目を丸くしていたけど、ち

 ょっと、やり過ぎたかなぁ。


 何でそんなに詳しいのって聞かれたら、困

ったことになる。


 そう言えば、後藤先輩。

 しばらく会ってなかったけど、昔の恐いイ

 メージとだいぶ違ってた。


 浩平のこと、すごく心配してるって、そん

 な感じがした。
 

 でも、なんでそんな後藤先輩が、浩平に嘘

 を言ったんだろう?

 お爺さんはさっき、ちょっとお節介、って

 言ってたよね。

 お爺さんが、後藤先輩に嘘を言わせたって

 事? 


 まさかね

 何のために?


 でも、後藤先輩の嘘が切っ掛けで

 浩平は店で働けるようになったし、学校へ

 も行くようになったし、お母さんの反対もな

 くなったし。

 お爺さんは、こうなるって判っていたから、

 ワザと後藤先輩に嘘を言わせた?

 まっさかね〜?


 あっ、ラーメンが出来てきた。

 考えるの、面倒くさくなっちゃった。

 とにかく、浩平が頑張ってるからもう

 いいや!


 「いっただきま〜す。

  うっ、うめ〜!」

 
                 おわり

 
           最後までお読み頂き

              ありがとう

              ございました





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posted by saru at 20:10| Comment(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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