2011年12月11日

無主物


××11年11月22日
              福々新聞

 11月21日午前4時ごろ、東西都

相田区地賀2−3の色々ペンキ工場で

保管していたペンキが爆発する事故が

あった。

 幸いけが人はいなかったが、工場内の

タンクにあったペンキ10トンが爆発の

影響で周辺に飛散した。


 工場には周辺の住民から

「白い車が赤くなった」

「窓ガラスが真っ黒になって外が見えない」

「干していた白いワイシャツがレインボー

カラーになった」等の苦情が相次いでいる。


 色々ペンキ工場の 福島大市 社長は

「住民のみな様には大変なご迷惑をおか

けしました。

 ペンキを拭き取るなどの除染作業を速

やかにおこないます。」とのコメントを発

表した。





××11年11月25日
               縞々新聞

 9月、副山第二原発から約50キロ離

れた本松市の「サン本松ゴルフ場」が東

西電力に、汚染の除去を求めて仮処分を

東西地裁に申し立てた。


 対する東西電力は、こう主張した。

 原発から飛び散った放射性物質は東西

電力の所有物ではない。したがって東西

電力は除染に責任を持たない、としてい

る。


 決定は10月30日に下された。

 裁判所は東西電力に除染を求めたゴル

フ場の訴えを退けた。





××11年11月26日
       近所のおばちゃんの噂話

「ねぇ、奥さん聞いた?あのペンキ屋の

社長こと。」


「知ってるも何も、家の壁が真っ赤にな

ちゃって目立つ目立つ!

 で、その社長がどうしたの?」


「急に、爆発で飛び散ったペンキは色々

ペンキ工場の所有物ではない、なんて言

い出したのよ。」


「えっ、それってどういうこと?」


「何かの裁判で、飛び散っちゃったもの

は、飛ばした所の所有物じゃないって判

決がでたらしいのよ。

 それを知った社長が、急に強気になっ

ちゃってね。

 飛び散ったペンキは、もう他人の家に

くっついたんだから、工場の責任じゃな

い、って言ってるのよ。

 いつまで待っても、お宅の壁、綺麗に

なんかしてくれないわよ。」


「そんなひどい話ってないじゃない。

 先月、外壁を綺麗に塗り替えたばかり

なのよ。

 人の家の壁を汚しておいて、私は悪く

ありませんって、それって、どういう

事?」





××11年11月27日
           周辺住民の会話

「同じ理屈でしょ。うちから飛んでいった

ものは、もううちの所有物じゃない。」


「まあ、理屈はそうかもしれませんけどね。」


「風向きもちょうどいいんだよ。」


「で、本当にそれ飛ばす気ですか?」


「あんな理屈が世間で通るんだったら、何で

もありでしょ。」


「なら、もう止めません。好きにすればい

い。」


「俺、何〜んにも悪いことしてないよ。お客様によろ

こんでもらえることだけ考えて真面目にやってき

たのに・・・・」


「悔しいですね。」


「でも、これやっちゃったら・・・。」


「ええ、あなたなら分かってもらえると

思っていました。」


「ふぅ〜! 昨日、美味しい酒、手に入

れたんだけど、ちょっとだけ付き合って

貰って良いですか?」


「朝までお付き合いしますよ。どうせ、

明日も閉めるんでしょ。」


「明後日もね・・・。

従業員達も呼んでパッとやるかね!

 明るく考えれば、何か見えてくるか

もしれない。」


「そうこなくっちゃ!やっとあなたらし

くなった。酒、足りないでしょう。買っ

てきますよ。」




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posted by saru at 18:24| Comment(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月03日

万年筆


「井原、主人が私たちのこと疑っているようなの。

おまえには何か言ってこなかった?」


 恵子は、ブラウスのボタンを留めながら聞いた。


「はい、奥様。社長からは、何も」


「そう、まだ大丈夫なようね。しばらくお前とは

会わないほうがいいようね。」


 スカートに足を入れた恵子は、ファスナーを上

げながら答えた。


「奥様、これ何だと思います?」

 と、井原はバックから古ぼけた万年筆を取り出

して言った。いかにも年代物の何か訳ありに万年

筆にも見える。


「お宝の万年筆?何千万円するとか?」


「残念ながら違いますが・・・使い方によっては

それ以上かもしれません。


 実はこの万年筆を持つと、手が勝手に動いて、

自分が考えていることを正直に書いてしまうん

です。」


「何バカなこと言ってるの。そんな万年筆あるわ

けないじゃない。」


「もちろん、そんな万年筆はありません。」


「井原、私をからかっているの?あまり面白い冗

談じゃないけど。」


「手が勝手に動くなんて誰も信じませんが、ひと

りだけ信じそうな人物をご存じないですか?」


「主人のこと?」


「そう社長です。」


「たしかに最近、急にオカルトとか霊媒師とかお

かしなことに凝りだしたけど・・・だから何な

の。井原、何か企んでるの?」


「奥様、この万年筆の使い方なんですが、私が社長に

この万年筆をお渡しして・・・」

というと井原は恵子のスカートの中に手を滑らせ

てきた。


その手を押さえながら恵子は言った。

「ちょっと・・・風邪気味なんだから・・・今日

はもう・・・」


「万年筆の使い方、教えて欲しくないんですか?」


「もう、井原ったら・・・」

恵子は押さえていた手を放した。




 翌日、恵子は夫の山城に書斎へ呼ばれた。

 書斎へ行くと、葉巻を吸っていた山城は、アゴ

でソファーに座るよう指示した。


 目の前の机には、便せんと見覚えのある万年筆

が置かれていた。


「恵子、その万年筆を持ちなさい。」

 笑いたい気持ちを押さえて恵子は万年筆を手に

した。


「そして私の質問の答えをこの紙に書きなさい。

恵子、お前は浮気をしているな。相手は誰だ!そ

こに名前を書け!」


 井原との打合せどおり、女優になりきった恵子

は迫真の演技で万年筆を持った手を振るわせた。


「あっ、手が、手が勝手に、いっ痛い!」


「恵子、無理に手の動きを止めようとすると痛み

は強くなる!あきらめて力を抜きなさい」


 皮肉な笑みを浮かべながら恵子の手元を見てい

た山城は、そこに書かれた文字を見て表情を変えた。

 便せんには震える字で


 浮気なんてしていません  私は死にます


 と、書かれていた。


「け、恵子。許してくれ。疑った俺が悪かった。

死なないでくれ。」 

山城は、恵子を抱き寄せ必死に叫んだ。

 恵子は、今年の主演女優賞は私だ、とつぶやいた。




「もしもし、井原?私よ。

主人は今、家を出たところ。うまくいったわ。

あなたの考えた通りだったわ。

そして私の演技が最高だったから!

 そう、完璧に信じてるみたい。

 あれから、何度も謝ってくるし、死なないでく

れって、もううるさくって。

 風邪をひいてるんだろうって、薬を置いていっ

たわ。こんなこと初めてよ。高い漢方の薬だって

言ってたわ。赤い包み紙も高級そうなの。

 けちんぼの主人にしては、本当にめずらしいわ。

 私たち、しばらくは大人しくしていましょう。

 しばらくはね!

 じゃ、また電話する。その間に浮気なんかしち

ゃだめよ。」





 山城が社長室にはいると、間もなく、井原から

報告があるといってきた。

 山城は、すぐに井原を社長室へよんだ。

「さきほど、奥様からお電話がありました。私の

演技は最高だったから社長も信用なさったと」


「ふん、最低の演技だったよ。信じる振りをする

こっちが苦労した。」


「風邪薬をもらったと喜んでおいででしたので、

私からも、きちんとのまれたほうがいい、と言っ

ておきました。」


「そうか。それならうまくいきそうだな。

 しかし恵子もバカな女だ。

 男遊びくらいだったら、目をつぶってやって

いたのに・・・。

 ご苦労だったな。嫌な思いをさせてしまった」

と言った山城は懐から分厚い封筒を取り出し、井

原に渡した。


「とんでもございません。いい思いをさせて頂き

ましたから。」


 その日、帰宅した山城は、警察に電話をした。




 警察は、「妻が死んでいる」との通報により急

行し、すぐに現場検証を開始した。

 死亡したのは山城恵子、遺書が見つかっており、

遺体の側に毒物が入っていたと思われる赤い包装

紙が落ちていた。

 警察では自殺と見て、その夫から事情を聞くこ

ととした。

「はい、確かに妻の筆跡です。昨夜、私が恵子の

浮気を疑って問いつめてしまいました。恵子を死

なせたのは私です。」






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posted by saru at 22:12| Comment(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月02日

共 生


 その群れは、糧を求めて南の草原を目指

していた。

「父さん、爺は大丈夫かな?」


「歩くのも大変そうだ。もう歳だからな」


「そんな爺に、食事の世話をしたり歩くのを

助けたり、みんなとても優しいね」


「この群れの中で、爺は最も勇敢だからな」


「えっ、それは父さんじゃないか。爺は歩く

のもやっとで、ライオンと戦うこともできな

い。角だって父さんの方が太くて大きい」


「確かに力は父さんのほうが何倍も強い。で

も、父さんだって、ライオンに襲われたら逃

げるしかないんだ。爺は違う。ライオンから

逃げる事はない。この群れでは、老いたもの

が一番偉いんだ。だから誰もが尊敬するし大

切にもする。それが、この群れが生き残るた

めのルールなんだ」


 息子は父の話に納得できないまま、歩き続

けた。いつか父のように立派な角を持ち、ラ

イオンにだって負けないぐらい強くなってや

る、そう思った。


 草原にたどり着いた息子は、草をお腹いっ

ぱいに食べて、のんびりと昼寝をしていた。


「ライオンの群れだ!急いで逃げろ!」

 
突然の父の叫び声に、息子は慌てて飛び起

きた。そして父の後を追った。父は逃げ遅れ

た仲間がいないか、周りを見回しながら逃げ

ている。


 その時、息子はライオンに追われている爺

を見つけた。いつもは歩くのがやっとなのに、

今は必死で駆けている。慌てているのか、み

んなと逃る方向は逆だ。


「父さん、爺が危ない。早く助けに行こうよ。

ねえ、父さん早く!」


 しかし、父は何も言わず逃げるだけだった。

 爺、ごめんね、いつかきっと強くなって、

爺の仇をとってやる、息子は心に誓った。


 父は安全な所に着くと、仲間を確認した。

爺以外はみんな無事だった。そして息子に話

しかけた。


「おまえが今考えていることをあててやろう。

強くなって爺の仇をとってやる」


 息子はドキッとした。


「父さんも子供の頃、仲間を殺され同じ事を

考えた。それから、強くなるため仲間とよく

戦った。いつしか群れで一番強くなっていた。


 ある時、群れがライオンに襲われたんだ。

 父さんはライオンに向かって走った。そし

て角を思い切りライオンの首めがけて突き出

した。ライオンは軽く横に飛んで避けると、

手を大きく振るった。父さんの肩は、深くえ

ぐられ血が吹きだした。


 ライオンとの力の差を思い知らされた。勝

てる相手ではない、父さんは死を覚悟した。


 その時、群れの年老いた一頭が、こちらに

向かって駆けてくるのが見えた。その表情に

恐怖はなかった。強い意志を秘めた勇者だっ

た。それまで、何故こんな老いたものを大切

にするのだろう、群れの移動には足手まとい

だし、やがて死ぬのだからそこまで世話をす

る必要はない、そう思っていた。


 老いた勇者は、ライオンに襲いかかった。

新たな敵に一瞬怯んだライオンだったが、あ

っさりと首に噛みついた。

 
そのすきに、父さんは逃げた。泣きながら

逃げた。自分の愚かな行為で命を無駄にして

しまった。そして、気づいたんだ。


 年老いた仲間達は群れを守るためライオン

に立ち向かうんだ。強制している訳ではない。

むしろ自分の死を無駄にしたくないと自らす

すんで誇らしげに死んでいくんだ。


 老いたものは普段仲間に助けられて生活し

ている。そして万が一の時、その命を投げ出

して群れを守る。大切にする理由は、それだ

けじゃない。年老いたものの経験は危険を避

ける術も知っている。


 だから、群れで最も勇敢なのは老いたもの

達なんだ。おまえは、爺が群れと逆に逃げた

理由を知っているか?

慌てたんじゃない。群れとライオンを引き

離すためだったんだ。ライオンの狙いを眠っ

ていたお前から、自分に変えさせたんだ。

爺はわざわざライオンの前を横切ったんだ。

勇敢な最後だった」


 堪えていた思いが息子の目からこぼれた。


その時、草原の端に別な群れが現れた。


「父さん、あの群れは年寄りを大切にしてい

ない。みんな置き去りにされている」


「そうだ。最近、急に現れた群れだ。弱いも

のはどんどん捨てられていくのでみんな必死

だ。その分、力も強い。が、みんな疲れて病

んでいる。

 いつ自分が落伍するか、とね。

 私たちの群れは安心なんだ。いつも弱いも

のを守り、そして、弱いものに守られている。

しかし、あの群れは、自分で自分を守るしか

ない。弱いものを大切にしない群れは、必ず

崩壊の道を辿るんだ」


「僕たちと違って二本の足で歩いてるけどな

んていう群れなの?」


「人間というらしい。ライオン以上に恐ろし

いから絶対に近づいてはいけないよ」





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posted by saru at 11:30| Comment(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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